日本酒製造に使った霧化技術を、廃液処理やリサイクルに活用(前編) - 産業動向 - Tech-On!
「地方から始まる『技術立国ニッポン』の再生」企画 徳島編の第1弾として取り上げる企業は、徳島県鳴門市にあるナノミストテクノロジーズである。
徳島駅から列車で北に約30分。のどかな田園風景が広がる地に、「超音波霧化分離」という技術を手掛けるナノミストテクノロジーズがある。超音波霧化分離を用いれば、廃液の浄化や、薬液の分離・濃縮、エタノールや温泉成分の濃縮などを、低コストかつ低エネルギーで実現できるという。
同社はこうした用途に向けて装置を開発、出荷している。2002年発足の同社(発足当時は超音波醸造研究所)はこれまでに幾つかの賞を獲得しており、2012年には「TOMODACHI東北チャレンジ」(米日カウンシル(USJC))で優勝、「徳島ニュービジネス支援賞2012」(徳島ニュービジネス協議会)で大賞を勝ち取った。超音波霧化分離を使って国内外に展開先を積極的に広げようとしている同社に、超音波霧化分離技術の仕組みや効果などを聞いた。
霧化だから低エネルギー
ナノミストテクノロジーズ 代表取締役社長の松浦一雄氏
超音波霧化分離技術では、液体に超音波を当ててミスト状(霧化)にする。「蒸発」が分子間の結合を切るガス化なのに対し、「霧化」は微粒子化となる。液体を加熱して蒸発させてガス化する場合に比べて、エネルギー消費量が少ないのが霧化の利点だ。霧化は蒸発のように分子をバラバラに分離するのではない。液体中の分子が同じ物質同士でクラスターを作りやすい性質を利用して、小さなエネルギーで液体からクラスターの霧(ミスト)を作る。ミスト状になった物質はその後、冷却したり吸着したりするなどして所望の物質のみを回収する。ミストは物質によって大きいもの(数百nm~数μm)と、小さなもの(数nm~数百nm)に隔たりができることも活用する。
エネルギー消費量は、具体的にはどのくらい減らせるのだろうか。ナノミストテクノロジーズを創業した代表取締役社長の松浦一雄氏によれば、「廃水処理の場合、今の段階では従来手法の7割くらい(3割減)、理想的には3~4割になる(6~7割減)」と胸を張る。廃水処理では、これまで廃水中の対象物質を濃縮したり、水分を飛ばしたりして減容化する際に加熱による蒸発を使ってきたが、超音波霧化分離を用いるとそうしたやり方に対して低エネルギーで減容化できるとする。蒸発に比べて霧化はエネルギー消費量が少なくて済み、ミストを凝集する方がガスから凝集させるよりも効率的だからだと、松浦氏は説明する。ミスト化した物質を分離する際の冷凍機の効率が上がれば、理想値に近づけられるとみる。
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温泉を濃縮して消費地へ運ぶ
超音波霧化分離技術の有望な用途として、松浦氏は大きく三つを挙げた。まず、前述した廃水処理である。廃水中から水を除くなどして減容化する際のエネルギー消費量を減らせるだけでなく、減容化によって産業廃棄物処理業者に依頼する処理量も減らせることで処理に要するコストの削減にもつながる。ナノミストテクノロジーズの納入実績では、廃水処理装置の案件が一番多いという。
次に松浦氏が挙げたのが、温泉水の濃縮である。これは、温泉中の水分を減らし、有効成分だけを濃縮させるというもの。濃縮させることで「温泉のもと」として持ち運びやすくし、温泉地から離れた土地で活用しやすくすることを狙う。温泉地での源泉を都会などで利用しようとすると、タンクローリーを使わざるを得ず、輸送コストがかかってしまう。そこで、温泉地にて源泉を濃縮して減容化した後に消費地に運ぶようにすれば、輸送コストを減らせるというわけだ。都会での温泉施設や介護施設などでの利用を想定している。1トン/日で処理できる装置を作り、2013年秋に関東のある施設に納入する計画だ。
温泉濃縮の案件は、もともとは群馬県のある温泉地から持ち込まれたものだった。依頼者は当初、温泉水を加熱して濃縮することを検討してきたが、所望の処理量をこなすにはエネルギー消費量が大きくなってしまうので困っていた。そうした問題は、超音波霧化分離技術で解決できるとする。
松浦氏が3番目に挙げたのが、病院での溶剤回収である。使用済みの病理染色液などから、溶剤をリサイクルする用途に向ける。病理染色液は、マーカーである色素を有機溶媒に溶かして使う。その溶剤をリサイクルするのである。使用済みのキシレン液、ホルマリン液のリサイクルにも使えるとする。とくしま産業振興機構の協力を受けて2012年度に装置を開発し、2013年夏すぎから装置の販売を始める。
装置は1台400万円。利用しようとするとこれだけの初期費用が必要になるが、利用者は数年で元が取れると、松浦氏は試算する。松浦氏によれば、溶剤の値段は500円/L、さらに専門業者に依頼する処理には150円/Lが掛かっているという。大規模な病院や検査センターなどで仮に1日10Lの処理が必要な場合には6500円掛かる。年間で100日処理すると考えると65万円。つまり、数年で初期費用が賄える計算だ。「病院は今、クリーンであることが重要になってきた。その面でも、リサイクルできることは大切である」(松浦氏)。なお、従来は使用済みの病理染色液から溶媒を回収する場合、加熱する手法を使ってきたという。
大規模な病院や検査センターが想定顧客とし、国内だけでなく、海外展開も視野に入れている。何十億円レベルの市場になると、松浦氏は期待を膨らませる。
(後編に続く 2013年9月12日公開予定)
「地方から始まる『技術立国ニッポン』の再生」企画 徳島編の第1弾として取り上げたナノミストテクノロジーズ。前編は、同社が強みとする超音波霧化分離技術の利点や、廃液処理と温泉濃縮、溶媒回収といった有望な応用先を紹介した。後編は、同技術をこうした用途に使おうとした経緯や海外展開、超音波霧化分離技術のさらなる可能性について同社に聞いた。
ナノミストテクノロジーズ創業者で代表取締役社長の松浦一雄氏が超音波霧化分離技術を実用化したのは1999年と、2002年の同社創業前である。同社への出資者であり、創業200年を超える酒造メーカー、松浦酒造場での日本酒の生成工程で用いたのが始まりだ。日本酒の風味を落とさずに雑味をなくし、そしてアルコール濃度を高めるために、超音波霧化分離技術を用いた。「求められる技術水準はさほど高くなかった」と松浦氏は当時を振り返る。
米国法人を立ち上げ、医療分野に狙い
次に、同技術の展開先として狙いを定めたのがバイオエタノールの濃縮であった。これも開発は順調に進んだが、バイオエタノールに対する市場の期待値が下火になったことで新たな応用先を探さざるを得なくなった。行き着いた先が前編で登場した廃液処理である。
松浦氏によれば、超音波霧化分離技術を使う装置はナノミストテクノロジーズ以外に販売する企業はない。だが、研究開発レベルでは類似技術を利用した論文が国内外で出てきているという。海外からの引き合いもあり、2013年に米国法人を立ち上げた。
米国法人を立ち上げるきっかけになったのが、「TOMODACHI東北チャレンジ」(米日カウンシル(USJC))で優勝したことだ。米国のベンチャー・キャピタリストなどにナノミストテクノロジーズの技術や効果が知られ、同社の知名度が一気に高まった。その結果、「米国法人をやらしてほしい」という打診があり、米国法人立ち上げにつながった。米国ではまず、医療分野に向けて薬液の溶媒回収装置を販売していく。
ナノミストテクノロジーズはこれまで、廃液処理装置で中東から引き合いがあり、超音波霧化分離技術による装置をOEM生産したいという依頼がスペインから寄せられたことがあった。だが、本格的な海外展開は米国法人の立ち上げが初めてといえる。
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バイオエタノールに再挑戦、ライセンスも活用
今後は製品販売とともに、超音波霧化分離技術のライセンス展開も視野に入れる。松浦氏が超音波霧化分離技術について最初に出願・登録された特許は、「あと1年で切れる」(同氏)。周辺特許もその後出願してきたので、ナノミストテクノロジーズが保有する特許の効果が薄れるわけではないとするが、「特許は所詮、寿命は20年」(同氏)であるので特許が有効な間にライセンスを積極的に進めていきたいと語る。「特許は維持するために費用が掛かる。ライセンスで稼がないと、特許を維持することすらできないかもしれない」という、中小企業の規模としての切実な課題も背景にある。
こうしたライセンス展開は、松浦氏が描く超音波霧化分離技術の未来像を実現する上でも避けて通れないようだ。同氏は、かつて開発に注力したバイオエタノールの濃縮が将来、大きな事業に成長すると期待している。それを推し進めようとすると、ライセンスがカギを握る。
松浦氏は、化石燃料の枯渇や地球温暖化防止の観点から、再びバイオエタノールが表舞台に登場するとみる。バイオエタノールを超音波霧化分離技術で生成しようとすると、商用では年間1万トンを処理するプラントが必要になると同氏は試算する。ナノミストテクノロジーズが手掛ける廃液処理装置に比べると、2桁以上大きく、同社の規模では対応できない。実現しようとすると、規模の大きな企業と組んだり、ライセンス供与したりといった形態が出てくる。昨今、海藻などを養殖して効率よくバイオエタノールを得ようとする動きがある。こうした動きにうまく同調していきたい考えだ。
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